USB DAC「DS-200」開発秘話
Soundfort開発設計責任者の片山です。
今回は、2015年12月の発売以来、今もなお多くのお客様から高い評価をいただいているUSB DAC「DS-200」に込めた想いと開発の舞台裏を少し紹介したいと思います。
DS-200の基本構想
小型デスクトップサイズの「PCオーディオ」入門・普及モデルとして、DAC に「PCM1798DB」を採用したヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「DS-100」(販売終了)を開発・販売開始後、お客様から頂いた様々なご意見・ご評価を参考にしながら、上位機種「DS-200」の開発に着手しました。
DS-200の基本構想として、主に次の要件を柱として開発をスタートしました。
- 入門・普及モデル「DS-100」をしのぐ高音質
- そのためのデジタルとアナログ回路の分離
- PCM 192kHz, DSD128 への対応
デジタル系チップの選定とデジタルノイズ低減の工夫
採用するDACチップ、USBインタフェースIC、S/PDIFインタフェースICなどの選択にも随分悩みましたが、「DS-100」で採用したICの高評価もあり、最終的にその各上位チップを選定。各ICの制御はあえてマイコンにより行うことにしました。
(私自身は、DACの持つ音質や特性の差異はあっても、それ以上にアナログ回路による音質の差異が大きいと考えています。)
DS-100 / DS-100+ | DS-200 | |
---|---|---|
DAC | PCM1798DB | PCM1795 |
USB I/F | TE8022L (DS-100) SA9027 (DS-100+) |
SA9226 |
S/PDIF DDC | – | WM8805 |
※TENOR社製 TE8022L の開発者が後にSaviTech社で SA9027/SA9226 等を開発しています。
またデジタルノイズの影響を極力低減するために、アナログとデジタル基板を単に別基板構成としただけでなく、基板のレイアウト、パターンの引き回しを何度となく試作を繰り返しながら攻めて行きました。
ちなみに、時期的には PCM 384KHz 対応のDAC搭載製品も出てきていましたが、実際に市場に多く流通している音源を安定して再生できる「実用性能」を重視し、素性のよいTI(Burr-Brown)製の PCM 32bit/192KHz 対応DAC「PCM1795」を採用しています。 (後に Windows 10 が「USB Audio Class 2.0」に対応したことで、「DS-200」が Windows 標準ドライバのみで PCM 24bit/192kHz のフルスペックで再生が可能になるという、嬉しい誤算もありました笑)
アナログ回路に±15V正負電源を採用しレンジの広い音に
アナログ回路では、動作電圧による音質の差(広がり)がオペアンプを使った回路においても存在することは分かっていたので、アナログ回路は±15Vで動作させることにしました。
もちろん電源電圧を変えての評価も繰り返しましたが、やはり電圧が高いほうが確実にレンジが広くなります。
ただ、DS-200は小型の筐体にデジタル系とアナログ系の基板を2枚内蔵するため、大掛かりな電源を搭載することはできません。そこで部品としては高額となるものの、音質優先で小型ローノイズDC-DCコンバーターをあえて採用しています。
これにより、従来機種と比べてもダイナミックレンジの広さを実感できる音を実現することができました。
もちろん電源だけでなくコンデンサ(キャパシタ)にもこだわっています。
実装面積の制約上、大型コンデンサはさすがに無理でしたが、オーディオ機器に採用されている様々なコンデンサを入手して試聴を繰り返し、最終的に「最も心地良い音」になるPanasonic製のフィルムコンデンサを採用しています。
悩ましいボリュームの選定
音量を調整する「ボリューム」は、ヘッドフォン出力の音質を大きく左右する部品の一つです。
その選定にあたって、アッテネーター型、フィルム系、金属皮膜系などの各種サンプルを入手し、試聴を繰り返しました。当然大型のアッテネーター系、フィルム系のボリュームはそれなりの良い音がします。しかし「DS-200」に実装するには大きすぎてコストも上がります。
悩んだ結果、通常のボリューム(ポテンショメーター)の中で音質が良かったメーカーのものを選定。メーカーには色々と無理なお願いをし、ほぼ特注品に近いものになりました。加えて入荷時にトラッキングエラーなどの全数検査を行ってさらにふるいにかけ、製品には精度の良いものだけを選別して使用しています。
使い勝手と音質追求の両立
DS-200は、先の通りアナログ/デジタル回路を基板レベルで分離して内蔵するため、アナログ系のボリュームつまみやヘッドホン出力端子、デジタル系の各種インジケーター用LEDの位置は自ずと決まってしまいます。
しかし使い勝手や各種表示のわかりやすさを損なわないよう、開発チームで議論を重ね、コンマミリ単位で高さや位置を微調整し実装のしやすさと使い勝手を高めました。
また、DS-200ではヘッドフォン出力端子にあえて3.5mmステレオミニジャックを採用しています。これにより、多くのヘッドホンやイヤホンを変換プラグなしで気軽に使えるようにすると同時に、基板の実装面積が小さくなりアナログ回路のレイアウトに余裕もできました。
さらに、背面のRCAライン出力端子はヘッドフォンアンプ回路をバイパスしてDACから最短経路で出力し、別途「HS-100」などの高品位なアナログヘッドフォンアンプや、「AS-100シリーズ」などのプリメインアンプを接続することで、「DS-200」の性能を最大限引き出す拡張性を持たせた設計としています。
ヘッドフォン出力 | ライン出力 | |
---|---|---|
端子 | 前面 3.5mm ステレオミニジャック | 背面 RCA 端子 |
出力 | レベル可変/最大出力: 300mW (32Ω, THD 1%) |
レベル固定: 3Vrms at load 2kΩ |
THD+N | > 0.001% (1kHz 50mW) | > 0.0006% (1kHz 3Vrms) |
S/N比 | < 101dBA | < 114 dBA |
「DS-200」の背面端子と接続例
開発設計者として、今もなお評価・ご愛顧をいただいていることに感謝
このような積み重ねが実を結び、「小型機ではあるが大型機に負けない音質を楽しんでいただきたい」という想いを形にした「DS-200」を市場に送り出すことができました。
発売より数年と長い時間が経過していますが、色付けの少ない安定した音質と機能で、今も尚ご評価をいただいていることに感謝感謝です。
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スピーカーやアンプの「定格インピーダンス」とその値が意味するものとは?
アンプやスピーカーのカタログやスペック表には必ず「定格インピーダンス」として「4Ω」や「8Ω」などの数値が記載されていますが、この数字は何の指標として使われているのか、ご存じでしょうか?
結論を先に言えば、この値はスピーカーをアンプに接続した時に「アンプを壊さないための数値」と思っておけばよいでしょう。
簡単に表すと、次のような関係になっていれば問題ありません。
「スピーカーの定格インピーダンス」≧「アンプの定格インピーダンス」
例:
「スピーカー 8Ω、アンプ 4Ω」・・・⭕️
「スピーカー 6Ω、アンプ 8Ω」・・・❌
どういうことなのか、「スピーカーの定格インピーダンス」と「アンプの定格インピーダンス」の内訳を見てみましょう。
続きを読むApple Music ロスレス&ハイレゾ配信開始! 音楽ストリーミングを高音質で聴くために必要不可欠なものとは?
今や音楽を聴く手段として一般化した「音楽ストリーミングサービス(音楽サブスク)」。 中でも、
辺りが有名で、この記事を読まれる方の中には有料サブスクリプションでの利用者も多いのではないでしょうか。
また、2020年以降はコロナ禍もあってか、日本国内でも音楽ストリーミングの需要や今後利用したいというニーズが増えていることが、先日公開された「博報堂生活定点2020」にも表れており、世界的にはすでに音楽産業の収益の大半が音楽ストリーミングになっているほどです。
生活定点1992-2020|博報堂生活総研
図1:「音楽配信サービスを利用している」:35.8%
図2:「音楽配信サービスを利用したい」:55.9%
Apple Music の空間オーディオ&ロスレス/ハイレゾ配信の衝撃
これまで、音楽ストリーミングサービスで「ロスレス」や「ハイレゾ」での配信は、海外では「TIDAL HiFi」や「qobuz」などが広く普及していましたが、日本国内では 2017年12月に「DEEZER HiFi」が、2019年9月に「Amazon Music HD」がようやく対応したばかりといった状況で、当初月額1,980円程度で提供されていました。
しかし今年の6月、「Apple Music」が既存のプラン (月額980円) のまま「追加料金なしでロスレス/ハイレゾロスレス配信および空間オーディオに対応」し、現時点では対応端末が Apple 製端末に限られるものの、日本のスマートフォンの約6〜7割のシェアを占める iPhone などでロスレス音楽ストリーミングを気軽に聴けるようになりました。
これを受けて、ライバルとなる Amazon が従来追加料金が必要だった「Amazon Music HD」を、Amazon Music Premium の「月額980円のまま追加料金なし」で利用可能とし、Windows や Android 端末ユーザーも恩恵が受けられるようになった他、以前からロスレス配信が噂されている Spotify Hi-Fi もこれに追従するのでは?という憶測(期待)も流れています。
従来はダウンロード購入がメインだったハイレゾ音源が、音楽ストリーミングによって事前に大容量のデータ保存用ストレージを用意することなく、誰でも気軽に聴けるようになったことは、ロスレスやハイレゾの敷居が下がったという点で、日本でも新しい音楽ライフスタイルの時代へ大きな転換点になるのかもしれません。