DSD形式の DSD64, DSD128 や DSD 2.8MHz, DSD 5.6MHz は何が違う?
しばらく記事の間が空いてしまいましたが、お知らせ関係は Facebook, Twitter の方に移行し、今後このブログでは、気を改めてオーディオや開発などにまつわるネタを中心に取り上げていこうと思います。
今回は「DSD」について、USB DAC やハイレゾ音源のスペックを見るときに知っていると役に立つかもしれない、ちょっとしたネタを書いてみます。
PCMとDSDのスペック表記方法の違い
デジタル音源の形式には、大きく分けて「PCM」形式と「DSD」形式の2種類がありますが、それぞれどれくらいの精度なのかを表記する方法が違うのはご存知ではないでしょうか?
例えば「24bit/96kHz」や「DSD 5.6MHz」「DSD128」などです。
すでにお気づきだと思いますが、「PCM」の場合は「24bit/192kHz」といった形でデータの高精細度を表現しますが、「DSD」の場合は「DSD128」だったり「DSD 5.6MHz」だったりと、2種類の表記の仕方があります。
これは一体何を表しているのでしょうか?
※PCMとDSDの違いについては、こちらの記事を参照ください。 soundfort.hatenablog.com
DSDだけ2種類の表記がある?
「PCM」の場合は、音の波形の振幅(振れ幅)をどれくらい細かく記録できるかを「bit数」で、時間軸方向にどれくらい細かく記録できるかを「周波数(Hz)」で表記します。そのため、bit数(量子化bit数)が大きいほど音の諧調がきめ細かく、周波数(サンプリング周波数)が大きいほど時間軸方向を細かく→より高い音まで記録・表現できるというのが直感的にわかりやすくなっています。
一方「DSD」の場合は、振幅は一定(1bit=0か1のどちらか)で、時間軸方向のみを細分化して記録する方式のため、精度を表す際は「周波数(Hz)」のみで表現されます。
が、しかし「DSD 5.6MHz」という周波数の単位(Hz)で表記する場合もあれば、「DSD128」などと単位を着けずに、周波数とは違った数字だけで表記する場合もあります。
2種類の表記がある理由はDSDの起源に…
DSD形式は、もともとは「スーパーオーディオCD(SACD)」に採用されていた記録形式でした。
Windows のオーディオ再生ソフト「foobar2000」で、DSD対応USB DACの設定をしたことがある方は、「Super Audio CD Decorder」というソフトをダウンロードしたことがあるのではないでしょうか? ここで「Super Audio CD」という名前が出てくるのは、そのためです。
では、「DSD」の後ろにつく「64」や「128」の数字は何か?
先に答えを明かすと、64は、「44.1kHz」の「64倍」を表す数字です。
「44.1kHz」と言えば、デジタルオーディオになじみのある方なら、「16bit/44.1kHz」でお馴染みの「CD」のサンプリング周波数です。
詳しく解説すると長くなるので端折りますが、CDプレイヤーの時代に「オーバーサンプリング」という、2の乗数倍の精度でデータを処理することで高音質化を図る技術があり、もともとA/D(アナログ to デジタル)変換の方式として開発されましたが、その後CDプレイヤーに内蔵されたDAC(D/Aコンバーター)にも採用されるようになりました。(通常「ΔΣ(デルタ・シグマ)変調」と呼ばれます)
ザックリと言うと、その形式をほぼそのまま記録フォーマットとして採用したのが「Super Audio CD」です。 そしてSACDには、その記録精度として「CDのサンプリング周波数の64倍(2の6乗)」、すなわち
44.1kHz × 64 = 2,822.4kHz ≒ 2.8MHz
の精度のDSDデータで記録されています。
つまり、「DSD64」とは、44.1kHzの64倍の周波数のDSDデータを表しており、「DSD64 = DSD 2.8MHz」ということになります。
さらにこうした事情から、DSDをPCM変換して再生する場合には、44.1kHzの偶数倍の周波数(88.2kHz, 176.4kHz,…)のPCM信号に変換されるというわけです。
倍数表示と周波数表示のどちらがわかりやすいか?
こうしてDSDには2種類の表記法が混在するようになりましたが、どちらの表記法がわかりやすいか?と言うと、エンジニアなど前述のような事情を知っている人なら、DSD64 や DSD128 と表記した方がより正確だと思うでしょうし、おそらく一般の方には PCM と同じように周波数で表したほうが(小数点以下1桁で丸めていますが)、前提知識がなくても直感的に把握しやすいのではないでしょうか。
今でもメーカーや製品によって表記が異なっていたり混在/併記されていることがありますが、これを知っていればもう間違えることはありません。
対応関係を表にまとめると次のようになります。
倍数表記 | 周波数表記 | DAC必要スペック(ダウンコンバートなしの場合) |
---|---|---|
DSD64 | DSD 2.8MHz | PCM変換時 176.4kHz(192kHz対応DACが必要) |
DSD128 | DSD 5.6MHz | PCM変換時 352.8kHz(384kHz対応DACが必要) |
DSD256 | DSD 11.2Mhz | PCM変換時 705.6kHz(768kHz対応DACが必要) |
これでスッキリした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
最近では、DSD512(DSD 22.4MHz)というモンスター級スペックのDACも出始めていますが、周波数が高くなればなるほど設計や運用の難易度が上がるため、概ね DSD256(DSD 11.2MHz)対応というのが、主なハイスペックDACの落とし所となっているようです。
今回は DAC のスペックを見る際に必要な知識として「DSD」を取り上げてみましたが、今後こうしたちょっとしたネタも取り上げていきたいと思います。(担当S)